犬のようなる法師来れば
なげけとて月やはものを思はするかこち顔なる我涙かな(千載和歌集)
百人一首に選ばれているこの歌でも知られる西行法師。本名は佐藤義清。北面の武士として鳥羽上皇の側近として仕官していましたが、やんごとなき高貴な女性との恋の糸のもつれでしょうか(諸説有)、突如23才のとき仕官を辞して出家。爾来半世紀にわたる漂泊の旅を続けました。
この「漂泊の旅」というのが刺さるんですよね。私の好きな旅の歌人の一人です。
全国各地の歌枕の地などを訪れ、様々な事跡や伝説を残しています。そうした土地をめぐるのも私のツーリングの楽しみのひとつです。
さて、その西行法師は、わが長野県ではこんな事績が伝わっています。
「わらびにて手なやきそ」 ※『わらび(藁火」)で手をやけどするんじゃないぞ』
と声をかけました。
「ひのきにて頭なやきそ」 ※『ひのき(火の木)であたまを焼かないでね!』
「檜(ひのき)」の笠を被っていた西行法師をやりこめてしまいました。
なかなか生意気な童ですが、賢いですね。
さらに山径を辿り、今度は火之御子社の境内に差し掛かった時のことです。
桜の木の下で遊んでいた村の子どもたちが、西行法師の姿を見て一斉に木に登りました。
西行法師は「さるちごと見るよりはやく木にのぼる」
※『木登りがうまいので猿に間違ってしまったぞ』とからかいました。
すると、子どもたちはこう答えました。
「犬のようなる法師来れば」
※『みすぼらしくて犬のような坊さんが来たからだよ!』
「犬猿の仲」という故事を揶揄したんですね。
今日2月15日は「西行忌」 亡くなったのは旧暦2月16日とのことですが、有名な歌
「願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃」の歌により、15日を忌日としています。自身の言葉通りの時に人生の幕を引く…なんてところも刺さるところですね。